ホーム > グループ情報誌「Link」 > 対談 > 野村万作氏 × 石黒 和義 太郎冠者の語りに酔う


(左)和泉流狂言師 野村万作氏
2007年に重要無形文化財各個認定、いわゆる人間国宝の栄誉を受けられた狂言界の巨匠、野村万作氏。全国各地のさまざまな舞台で、日々、至芸の数々を演じる一方、さらなる芸の練磨に、後進の育成にと余念なく励まれている。洒脱で端正な芸そのままの姿で見えた万作氏は、折々に狂言の所作とセリフを交えて場をゆるめながら、芸道にひそむ話の花を咲かせる。時に笑い、時にうなずき、語りに酔って気がつけば早や90分。狂言二話をじっくり堪能した、和やかな気分に包まれていた。
石黒 : 昨年11月に、東京・水道橋の宝生能楽堂で催された野村狂言座を楽しく拝見しました。万作さんが祖父(おおじ)の役を演じられた狂言「老武者」は、橋掛かりに勇ましい格好で老武者が並ぶと威圧というより、何故か可笑しみが込み上げてきました。
野村 : 稚児を可愛がりたい若者と老人の争いをテーマにした話で、僕は老人の代表。狂言では、老人役はわざと老醜を誇張してさらし、笑いを誘う作られ方が多いんですよ。でも老武者では偉い、若者を一喝するような役柄ですから、それらしさに配慮しました。
石黒 : 大立まわりもある派手な曲ですね。でも最後はお年寄りを労わるところもあって、シニアのパワーと若者の関係に、ほのぼのとしたものを感じます。私は、老武者の立場でついつい観てしまって(笑)、何となく切なさみたいなものが残りました。
野村 : 老武者が長刀などを持って攻め込み、竹竿を持った若者に追い立てられる。しかし最後には、若者たちも老人を敬おうと思い直して、稚児へ誘う。そして老人たちが稚児を担ぎ上げ、幕に入っていくんですね。その後どうなったかは、狂言でははっきりとさせない。そこが面白い。このように観客の想像に委ねる点が結構ユニバーサルなものだと思います。その時代、その国の状況と、600年前の狂言を見て、共通点を引き比べてもらえたらいいですね。