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早稲田大学ビジネススクール教授
遠藤功
早稲田大学ビジネススクール教授。株式会社ローランド・ベルガー会長。早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機株式会社、米系戦略コンサルティング会社を経て、現職。早稲田大学ビジネススクールのMBA / MOTプログラムディレクターとしてビジネススクールの運営を統轄。また、欧州系最大の戦略コンサルティング・ファームであるローランド・ベルガーの日本法人会長として、経営コンサルティングにも従事。主な著書に現場力三部作である『現場力を鍛える』、『見える化』、『ねばちっこい経営』(いずれも東洋経済新報社)、『MBAオペレーション戦略』(ダイヤモンド社)、『企業経営入門』(日本経済新聞社)など。
ホームページ:http://www.isaoendo.com
私は2005年10月に「見える化」(東洋経済新報社)を出版した。それ以来、「見える化」がひとつのキーワードとして、さまざまな分野で使われるようになった。「見える化」を冠した書籍も多数出版されている。
それまでにも「可視化」などの言葉が使われることはあったが、"技術の可視化""プロセスの可視化"など限定的な意味合いで使われることが多かった。私が提唱している「見える化」は経営全般にかかわるより広範な概念であり、企業活動に欠かすことのできないインフラであり、基本思想である。「見える化」とはそもそもトヨタ自動車における生産工程で生まれた概念である。トヨタ生産方式の生みの親である大野耐一氏はその著書(「トヨタ生産方式」ダイヤモンド社)の中で「目で見る管理」と呼び、次のようにその重要性を説いている。
――品質でいえば不良を表面化させ、量でいえば計画に対して、進んでいるのが、目で見てすぐわかるようにする。機械やラインだけでなく、ものの置き方・手持ち量・「かんばん」のまわし方・人の作業のやり方、すべての点に当てはまる考え方である。トヨタ生産方式を導入した生産現場においては、「目で見る管理」が徹底している。
「見える化」「目で見る管理」の重要性は、けっして生産現場である工場にとどまらない。研究開発、営業、物流、アフターサービス、さらには間接部門にいたるまで、企業のあらゆる部門において、「見える」ことは競争力を高めるための根本的な要素である。
それでは、なぜ「見える化」という目新しくもない、基本中の基本とも言えるコンセプトに注目が集まるのだろうか。その根底には、情報化時代、インターネット時代がもたらした"情報の洪水"という現象が大きく影響を与えているように思われる。
溢れるほどの情報やデータが、かつてとは比べ物にならないほど容易に手に入るようになったにもかかわらず、多くの経営者やビジネスパーソンは「見える」ようになったという実感に乏しい。逆に、情報の洪水に溺れてしまい、本当に大切なものが見えなくなってしまっているという感覚を多くの人が抱いている。
闇雲に情報の"量"を追うのではなく、必要な時に必要な情報が必要な量だけ見えることが、本当の意味での"情報化"である。膨大なデータベースを構築しても、それを活かす知恵がなければ、単なる「情報の倉庫」を作ったにすぎない。「見える化」という人間系の知恵、ソフトを導入することによって、構築した情報システムに血を通わせることが求められている。
IT(情報技術)は経営に不可欠な基盤となったが、それがどんなに高度化しようとあくまで"道具"にすぎない。「見える」ようにする主体はあくまで人間であり、ITではない。ITに使われ、振り回される傾向にある企業活動に、人間の息吹を取り戻したい。こうした危機感と欲求が「見える化」という言葉に反応させているのである。