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東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻教授
堀井秀之
東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻教授。i.schoolエグゼクティブ・ディレクターとして、i.school設立・運営の総指揮をとる。東京大学知の構造化センターではセンター長として、知の構造化技術の活用により新しい価値を創造する活動・研究開発を推進。著書に「問題解決のための『社会技術』」(中公新書)他。
グラミン銀行と創設者であるムハマド・ユヌス氏が2006年にノーベル平和賞を受賞し、社会的企業(ソーシャルエンタープライズ)に対する認知度も高まった。社会的企業とは、社会的課題の解決を目的として収益事業に取り組む事業体の事である。1980年代以降、レーガン政権下やサッチャー政権下で新自由主義に基づき社会保障費が大幅に削減され、公的な助成金・補助金を失ったNPOが事業体のコア・ミッションを収益事業とする事業モデルを模索したことに端を発する。
ボランティア活動やチャリティ活動を行う事業体とは、社会的課題の解決を目的とする点では類似しているが、社会的企業は無償による奉仕や寄付に基づくのではなく、収益事業に基づいている点で異なっている。
例えば、Madam Sachikoはカンボジア産の原料を用いて、現地の人が丁寧に焼き上げる土産用クッキーを販売することによって、貧困を無くそうとしている。無償による奉仕や寄付に頼るのに比べ、事業規模を大きくすることが可能である。また、公的な補助金・助成金に基づく場合に比べ、事業を自主的に推進することができ、速やかに事業展開することも可能だ。
一般の営利企業が利潤最大化を行動原理とするのに対して、社会的企業は社会的課題の解決を最優先する。営利企業に対する出資者は配当を求めるが、社会的企業に対する出資者の出資目的は貧困削減等の社会的課題の解決にある。社会的企業が実施する収益事業は通常のビジネスが成立しないものであるが、趣旨に賛同・共感したステークホルダーが協力することによりビジネスとして成立することが多い。
一般の営利企業においても、ヤクルトの「世界の人々の健康を守る」という代田イズムのように、その企業理念に社会的課題の解決を謳っていることが多く、社会的課題の解決を目的とするという観点からは、営利企業と社会的企業の間に明確な線引きをすることが難しい。利潤の追求(事業性)と社会的課題の解決(社会性)のバランスが両者を分ける指標であるが、社会的課題の解決を行うために収益が必要であるため、境界は極めてグレーである。そのことは、社会的課題を金儲けの道具に使っているという社会的企業に対する批判の背景にもなっている。実際に、社会的企業とは名ばかりで、貧困層を食い物にする貧困ビジネスも存在する。
ここでは、通常のビジネスが成立しない情況において、趣旨に賛同・共感するステークホルダーの協力など、一般の営利企業にはない仕組みを活用していることを社会的企業の特徴として着目する。
少子高齢化等の社会環境の変化に伴い、解決するべき社会的課題が増加・多様化している。また、財政状況の悪化に伴い、政府や自治体等の公的機関による社会的課題解決の限界も顕在化している。政府の手が届き難い社会的課題の解決も含め、社会的企業の果たしうる役割は大きい。特に、社会的企業は新しい社会運営の仕組みであり、その進展は社会変革の契機となることが期待される。